顧客離反/拡大関連指標

ここでは主に既存顧客に関する指標を取り扱います。

Churnは顧客が契約を解約することを意味し、Downgradeは顧客が契約金額を減らすこと、またExpansion / Upsellは顧客が契約金額を増やすことを意味します。この3つの概念はSaaSでは非常に重要なため、その関連指標が多くあります。

また多くの方がChurn Rate (解約率)という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。しかし、解約率という言葉だけでは実際に何を測っているのか曖昧なため、もう少し正確な表現が使われる事が多いです。

Customer Churn

Customer ChurnはChurnによって失った顧客数を指します。例えば有る月に5社解約が決まった場合は、5になります。

またChustomer Churn Rate (解約率)は解約が決まった社数の割合です。月初に100社のお客様がいたが、その月に3社解約が決まった場合、解約率は3%となります。

Gross MRR Churn

Gross MRR ChurnもしくはGross Revenue ChurnはChurnとDowngradeによる定額収益の損失を指します。

例えば月額100万円支払っているお客さんが3社解約、更にあるお客様が月額100万円の契約を50万円に下げた場合、Revenue Churnは350万円 = 100万円 * 3 + 50万円 * 1になります。

Gross MRR Churn Rate

Gross MRR Churn Rateはある月に既存顧客からChurnとDowngradeによって失われたMRRの割合を指し、以下のように定義されます。

$$\% = \frac{ある月のChurnとDowngradeで失ったMRR}{月初のMRR} * 100$$

例えば11月1日時点でのMRRが1億円だとします。11月中にMRR 1000万円のお客様が2社解約し、MRR 1000万円のお客様が1社500万円にダウングレードした場合、11月のGross MRR Churn Rateは25%となります。

$$25\% = \frac{1000 * 2 + (1000 - 500)}{10000} * 100$$

Net MRR Churn Rate

Net MRR Churn Rateは既存顧客からChurn, Downgradeで失われたMRRに加えて、Expansionで得られた追加MRRも考慮にいれた値になり、以下のように定義されます。

$$\% = \frac{ChurnとDowngradeで失ったMRR - Expansionで得たMRR}{月初のMRR} * 100$$

先程と同じ例を使いましょう。例えば11月1日時点でのMRRが1億円だとします。11月中にMRR 1000万円のお客様が2社解約し、MRR 1000万円のお客様が1社500万円にダウングレードしたとします。しかしここでMRR 500万円のお客様がMRR 5000万円にアップグレードしたとします。

$$-20\% = \frac{2500 - (5000 - 500)}{10000} * 100$$

Negative Net MRR Churn Rate

健全なSaaS企業の場合、ExpansionがChurn/Downgradeを上回り、この値がマイナスになります。つまり、既存顧客ベースからの契約金額が増えているということです。

そのため、この値をマイナスしたNegative Net MRR Churn Rateもしくは単にNegative Churn Rateという単語が使われることも多いです。単純に先程の式にマイナスをつけただけです。

$$\frac{Expansionで得たMRR - ChurnとDowngradeで失ったMRR}{月初のMRR} * 100$$

先程と同じ例を使うと、15%になります。

$$20\% = \frac{(5000 - 500) - 2500}{10000} * 100$$

Negative Churn Rateの数字はビジネスの成長に多大な影響をもたらします。例えば2.5%のChurnが有る会社と2.5%のNegative Churnの会社が同じペースで新規顧客獲得をしていったとしても、前者は既存顧客ベースがどんどん縮み、後者は増えていくため時間が経てば経つほど会社のARRの差が大きくなります。

上場SaaS企業のメトリクスの傾向から、SMB向けのSaaSで少なくとも100%、Enterprise向けで130%程度の値が健康と言われています。

LTV (Life Time Value)

LTV (Customer Life Time Value - 顧客生涯価値)とは、ある顧客が生涯を通じて企業にもたらす利益のことを指します。CLTV (Customer LTV)と呼ばれることもあります。

まず、顧客が平均的にどのぐらいの期間、サブスクリプションを続けてくれるかの期間 Life Time を算出します。Gross MRR Churn Rateの逆数、つまり何ヶ月で全てのRevenueがなくなるのかという期間を求めています。ここでは顧客数を使うよりMRRを使うほうが良いでしょう。

$$Customer\ Life\ Time=\frac{1.0}{Monthly\ Gross\ MRR\ Churn\ Rate}$$

LTVは顧客あたりに月々の利益がこの期間中ずっと得られると仮定した場合の利益総額になります。

$$LTV = \frac{Average\ MRR * Gross\ Margin\ Rate}{Customer\ Life\ Time}$$

例えば、月々のGross MRR Churn Rateが1%とします。そうすると、Customer Life Timeは100、つまり平均的にお客様は100ヶ月使い続けてくれることになります。

次にお客様から平均月額100万円頂いており、Gross Marginが70%とすると、月々に平均70万円の利益を上げる事ができます。

この場合、LTVは70万円 * 100ヶ月 = 7000万円となります。

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